1・面の意義 平面(surface)は線の移動、面の切断や重ね合わせ、線の集合による密度の増大(図2・27)や点、線の拡大によって形成され、立体の限界、境界に存在する上下左右に広がりを持つ二次元空間である。
視野内においては線で囲まれた部分を領域(domain)、囲んだ線を輪郭線(outline)という。領域があるまとまりをもち独立している状態を「定形」をもつといい、その周囲を「不定形」という。.「定形」は「図」となり、「不定形」は「地」となる。たとえば、1つの円を紙に描いたとき、円は「定形」で「図」となり、円の
周囲は「不定形」で「地」となる。面は、製図器具などを用いて描かれる幾何学的形態と、絵具を滴したり、紙をちぎったりして得られる偶然的形態に区別できる(図2・28)
2・四角形には、図2・29のように一組の対辺が平行な台形、二組の対辺が平行な平行四辺形、4つの角度が全て直角の長方形、4つの辺が等しく、かつ角度が全て直角の正方形
(square)に分類される。
正方形は平面図形の中で最も客観的形態で、上下左右の2組の辺で構成される対角線が等しい四角形である。カンディンスキーは正方形の辺について、上の線は「希薄」、「軽やかな」、「自由」、下の線は「束縛」、「重さ」のイメージを持ち、左側の垂直線は上の線と、右側の線は似た力を持つと述べ、点の構成で説明したように、枠組み内の点の位置によって力関係が異なって見えるように、正方形の辺においても、力学的な差が感覚的に生じると主張している。そして彼は辺の重さを図2・30のように力関係を線の太さで説明している。
3・正方形の構成 2つ以上の図形において、一方の図形に他の図形が重ねるか、あるいは内部におかれた場合を、オーバーラッピング(overlapping)という。これらの図形が同一平面に描かれたとき、各ユニット(unit)は互いに距離感を生じるが、
図2・31aのように、同一形態が並列した場合は同一平面上に見え、bのように正方形がオーバーラッピングされた場合、正方形は距離感を生じ、それぞれ前後に位置関係を表す。cのように透明に図形を構成した場合には、正方形の前後関係は知覚されるが、反転作用が生じ不明確な位置関係となる。d,eはaと同じように、それぞれの正方形が同一平面上に見える。何故なら、dは正方形の角が中心に一致し、eは正方形の中心がそれぞれ合致しているから、それに比較してcはd,
eに比べ空間性は感じるが、構成上の意図やまとまりに欠け、正方形同士が不安定な様相を示している。なお、aのように並列された正方形に一本の線を加えると、図形が相対的関係を持ち、位置関係が説明される(図f)。オーバーラッピングは映画の手法から生じた言語で、「二重転換」といい、場面転換や挿話などの接続法として用い、普通ダブル(W)という。なお、正方形は角にシュパヌングが働き、ほかの形態と角が接すると、より強いシュパヌングが働く(図2・32)。
4・三角形(triangle)は円と対照的な尖鋭な図形で、3つの辺による最小変数で、3つの角によって成り立っている。三角形は一見して正方形よりも単純な図形に思われがちであるが、方向、均衡、構造などの要素を考えると正方形よりも複雑な図形となる。正方形は四辺の長さが同じで、中心から等距離で、垂直と水平の2方向で4つの内角は同一であるのに、三角形は不等辺であれば、辺の長さ、位置、方向、内角などが各々異なる。つまり、三角形は形成する要素(element)は少ないが構造(structure)は複雑な形態といえる。
三角形は高さと底辺との差異によって、様々に異なったイメージが表現される。図2.33aのように高さに比較して底辺が長ければ長さに比例して、鈍重、安定のイメージが強まる。反対に底辺より高さが高くなればなるほど「不安定」、「生長」のイメージとなる(図b)。cは水平線と頂点との接した一点が強い緊張感を呼び、それは「不安定」で「動的」な表現となる。
三角形は円、正方形などと共に基本的幾何学形態で、単調で直載的な正方形や無限で温和な円などのイメージと違い、動的で緊張感をもつ図形である。図2・34aのように底辺が広く安定した三角形の並列は心静かなイメージとなっているが、bのように高さが底辺より強められた三角形は不安定な様相を示し、3つ並列されることにより、とげとげしい、人を寄せ付けないイメージを生んでいる。cの場合は頂点を下に向けているため不安定で、下向するイメージとなり、鋭角的な三角形の並列は動物の牙を連想させる。三角形は頂点を鋭角的にすればするほど、動的で方向性を示す。dにおいては、3つの三角形の構成が、その方向性をさらに強め有機的で動的な方向性を示している。図2・35は集合した三角形が波打っているようで空間的な表現となっている。
三角形は造形の世界では多くみられる形である。特に建築との関りは強く、巨大な墳墓で幾何学的に構築された山、ピラミッドは王の遺体と宝物の永久保存を目的とした三角形態は平静、不動、不変の表現を示している。西欧のゴシック尖塔、民家の屋根などにも三角形態が応用されている。14~15世紀ごろの西欧の男子服には被服形態に肩のはった上体と帽子、靴に三角形態がみられる個性的な装いで強いアッピールを人々に示している例も見る。それは、今日から見るとユーモラスでありながら、万人が好む扮装とはいえない。
基礎デザイン・吉岡徹
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