形態知覚
図形(figure=英、figur=独)と地(ground=英、Grund=独)
視野内に異質な領域が共存する場合、それらは1つのまとまったものとして知覚される。例えば平面上に描かれた図形を知覚する場合、一方が他方に際立った存在となる。ルビン(E,Rubin)は「形には浮き上がって見える図形と、背景となり周囲の空間となる地とがあり、それらは刺激条件により、規定され、観察者の経験、持続視、態度により異なる」と発表し、図形と地との関係を初めて明らかにした。ルビンは図形と地との特性を次のように記述している。①図形は形状を持つが地はなんだ形状を持たない。②両者の領域の共通の境界を輪郭と言うが、通常は図の領域のみ、その形状構成の効果を示す。③図は地より前方にあるように見え、地は図の背後に広がっているように感じる。④ 図は地に比べて強い印象を持つ。
同一の刺激図形でありながら、二様のまとまりが成立する可能性が内在している物を反転(交替) 図形(reversible figure)、あるいは多義図形、あるいは義図形、あるいは多義図形、あいまい図形という。この種の図形は、はじめに成立した見方が、しばらくすると観察者の意思にかかわらず、他の見え方に反転、移行する。以後は観察を続けることによって、両者の見え方が交替する。大別して、①図形と地の関係が反転するもの、②意味的に反転を行うもの、③遠近関係の交換するものがある。図形と地の反転図形の例としては次のものがある。
図2-91aの「ルビンの壺」と言われる図形は、2人の向き合う横顔を知覚した時、黒地は壺として知覚されず、黒い壺を知覚した時は向かい合う横顔は知覚されない。つまり2人の向合う横顔と壺とは、同時に図形、あるいは地として知覚されない反転性図形となる。この現象は図bのように線だけでも生じる現象である。図cの場合、黒い四角形としてみると、四角形が縦横に配列され浮かび上がった奥行きがある構成になる。しかし、白地の#型の形を図として見ると、奥行き感は消える。図dも同様の現象が生ずる。図eの数字の2と9との関係、図fのHとG、図gのマークと図hの市松模様の白地と黒地の部分は図形と地とが曖昧に知覚される。図iの場合は3本の折れ線が経験に基づいて、対象の隣接領域を理解し、白い字がEであると判別される。なお、市松模様は古代ギリシャでは「野蛮」な模様として被服に用いることを嫌い、道化師の衣装に使用する程度であった。
図2-92aの斜方向の十字形が図bにおいて垂直、水平の十字形が図形として知覚される。これは図形と地との関係が小さいものの方が大きいものより図形となりやすい有利性の条件に基づいている。しかし、これらの図形が簡単な構図の場合には、この法則が全て適用されると言うわけではない、少し注意をすると、図aは垂直・水平の十字形・図bは斜めの十字形が頭として見える。図cの場合には分割斜線の角度が等しいために、縦の十字形と斜めの十字頭形は互いに反転し、図形が知覚しにくく、交錯し、不安定な見え方となっている。これらの図形は外枠を一部中断する(図2.93)と、狭い部分は十字形として見えない現象が生じる。これは「とりかこみ」が「近さ」により優ることにより生じる現象で、図2.94a.bの黒い円と白い円とが明確に図形として知覚される場合や、図cのように三角形状の小さい領域より円が図として知覚されるのと同じ現象と考える。
規則的配列に異質な配列が存在すると、その部分が強調されて図形の中で強い性格が生じる(図2-95)、図2.96の放射状模様を図形として見たとき、同心円は地となり、連続したものとして知覚されるが、同心円を図形として知覚したときには同心円は中断して見える。
図形と地との関係は次のように条件を規定できる。
1)視野の中央に配列されているものを図形となりやすい。
2)水平、垂直の方向にあるものは斜方向の物より図形になりやすい。
3)小さいものは大きいものより図形になりやすい。
4)囲まれている領域の方が囲んでいる領域よりも図形になりやすい
5)領域内の異質なものは同質のものよりも時計になりやすい
6)左右対象の領域は図形になりやすい。
7)動いているものは図形になりやすい。
8)繰り返されるものは図形になりやすい。
9)群化したものは図形になりやすい。
10)過去に知覚したものは図形になりやすい。
図形と地は実際に描かれた形でなくても知覚され、
図2-97aは曲線が、図bは三角形が逆向きに見える。図2-98a.bには逆三角形の図形が描かれてはいないが、逆三角形の図形が浮かびあがって見え、図aにおける逆三角形は地より黒く、図bの逆三角形は地より白く感じられる。これらの現象は主観的輪郭線(subjective contours)よって図形と知覚されるのであるが、この主観的輪
郭線の切断部分を見ると、逆三角形と地との明度差が消え、主観的輪郭線もなくなる。図2.99は応用作品例で、図aは三角形が、図bは正方形が見える。
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