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執筆者の写真吉岡徹

形態の基礎理論・調和・支配と従属・比例

調和(harmony)

ハーモニーはギリシャ語のハルモニア(harmonia)から由来し、「適合」と言う意味を持つ。本来は音楽用語であるが、美術用語としても使用され、広義には2つ以上の要素間の相互関係が、質的にも量的にも「秩序」と「統一」が保たれ、静的で快い感情の得られる高次元の状態を言う。狭義には「統一」にも「対立」にも属さない状態をいい、比例、リズム、バランス、統一との関わりが強い。ハーモニーの反対は不調和な状態(disharmony)といい不快感を生じる場合をいう。

古代ギリシャ以来、美的形式原理の1つとして、調和の美こそ多様の統一と考えられ、要素間の類似性が強まると単調になりやすいので、対立によって変化をつけることを良いとした。音楽の調和についての研究は古くから和声楽としてあり、科学的分析も行われているが、美術の領域では色の調和の研究以外は理論的研究は少ない。特にデザイン上の領域では分析は今後の研究を待たねばならない。

支配と従属

条件の選択と整理によって、2つ以上の要素が秩序あるものに表現された時、「統一あるもの」という。その場合、構成要素は全体(whole)の部分(part)とに分かれ、部分は全体の1部として従属する。部分は全体を分解したもので、部分が群(group)を作ると群化(group-ing)という。全体を勝手に切断したものは部分ではなく「断片」となる。なお、部分は他の部分と区別される程度の独立性を持つが、全体のように完全な独立性は持たず、全体の分解されたものとして、その支配下にある。全体と部分との弁別は観察者の状況や視点によって異なり、部分同士の変化と統一の兼ね合いが調和と対立との関わりを作り、美的表現の基本となる。

我々が家具や被服などを購入する時、そのもの自体を独立したものとして考えるが、同時に使用場所、嗜好、性別、年齢など、その製品と関わる状況に鑑みて購入する。つまり、部分となる製品が購入時には全体としての条件も考慮される。また、全体における支配的要因としては、最大、最強、最重要が優先し、被服においてはポケットやボタンは従属的であり、時計は服装において従属的であり、時計のバンドは時計自体に従属的関係となる。支配と従属の関係は対比的要素を持ち、緊張感が生まれ、美的表現を示す。統一は他の要素を抑制し、対立は種々の競合が生じる中で、最も優勢なものが主張となり、統一を保つ。  もし主張が劣勢となると不安定で感乱を生じ、分解の様相を示す。対立は視覚的間緊張を作るが、視覚的に秩序ある構成として支配と従属との関係を不調とする。これら統一・対立・主張の関係が一体となって表現されることが美的秩序の根本原理となる。

比例(proportion)

プロポーションは比例、比率、割合などが訳され、古くから美的条件として、建築、家具、工芸、絵画、被服等に応用されてきた。古代ギリシャではプロポーションのことをアナロギア(analogia)といい、「比例に従う」と訳され、シンメトリー(symmetry)と同義に近い解釈がされていたが、普通、プロポーションはシンメトリーよりも、明確な数的秩序の意味合いが強く、大と小、長と短、重と軽など部分と部分、全体と部分の質や量との釣り合いについての美的バランスのことをいい、主として長さについての原理となる。

任意の長さを1倍、2倍、3倍、4倍・・・とその間隔を等寸法にとると、等差数列(arith-metic progression)が得られる(図2.66a)。

この数配列は物差しの目盛りと同じで変化に乏しく、単調な表現で比例としては美しい配列が望めない。しかし、初項を1とし、公比rを次々にかけ、隣同士の比を等しくしていくと等比数列(geometric progression)が得られ、変化のある比ができる(図b)。また、cのように等差数列のが逆数による調和数列(harmonic progression)は、比例的に変化がある美しい割合を得られる。この後者2つの例は美しい比例となる。

各項の前2つの数値の和となるように1、1、2、3、5 、8、13、 21・・・の比にすると、黄金比に近いフィボナッチ数列(Fibonacci series)が得られる(図2.67)。この数値はヒマワリ、ヒナギクの渦巻き状に並んだ種の時計方向と逆時計方向との2種類の渦巻きに見られる比と合致する。また、前項の2倍した数に前の項を加えたものを次項とすると1+ √ 2 =Θの数となる。例えば1、2 、5、12、 29・・・これをペル数列(pell series)と言う(図2.68)。ぺル数列やフィボナッチ数列は数的配列に美的変化が見られ、造形的に効果的な表現となる。

比例の研究で古くから行われているものに人体についての考察がある。

AD元年2にヴィトルヴィウス(Vitruvius)は、「建築十書(De Arohitectura)で「全身を基本と、顔面を10分の1、手の長さ1/10、足うら10/1、胸幅と脇の長さ4/1とすると主張し、人体寸法の基本比例とした、BC 4年4世紀に発見された、ギリシアのミロのビーナス(図2.69)は身長に対する臍の位置、顔面の幅と長さとの比などに黄金比が見られる。またAD 15世紀にはダ・ヴィンチ(Leonard da Vinci)が理想的人体比例(図2.70)や「老人の頭部(図2.71)」など黄金比を用いた作品を発表している。古代ギリシャ・ローマでは理想的プロポーションの臍位置は全身の3:5のところに示される。この3:5と加算された8との3:5:8の比率は8:5 = 1.6、5:3≒1.666の黄金比と近似の数値となる。またAD 5世紀のポリクレトス(Polycleitus)の7頭身、リッシッポス(Lysippus)の8頭身0の彫刻像、AD 19世紀のツァイジング(A.Zeising)の8頭身などの人体比例が著名であるが、日本でも清長や豊国の浮世絵に8頭身美人が登場している(図2.72)。

今日、8頭身が理想的人体比例とされているが、これは一般に女性の場合で、男性の場合は7頭身が理想とされる。なお、図2.73は16世紀のドイツ最大の画家デュラー(A.Durer)による文字のデザインで、それまでの印刷の熟練工によるローマ字のデザインを比例により構成したものである。


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