• 吉岡徹

形態の基礎理論・・ルート短形・・黄金分割・・日本の造形に見る黄金比・・モデュロール

更新日:2021年5月6日

ルート短形(root rectangle) 短形は角がすべて直角の四角形で互いに対面する辺が平行で長さが同じとなる。代表的短形としては√短形と黄金短形があり、√短形は辺の比が1:√の関係に、黄金短形は1:φ(黄金比)になる。なお、黄金比の値は1に対して、(1+√5)/2になる。ルート短形(root rectangle)を求めるには図2-74aのように正方形の一片を1としたとき、その対角線は√ 2となる。この1: √ 2の短形を√ 2短形といい、古代ギリシャから理想的比例として「調和の門(porte d’harmonie)と呼ばれ、美的構成の基本の形とされた。√2短形の対角線は√3となる。√3短形の対角線は√4となる。同様な方法で順次長辺を求めてゆくと√n短形が得られる(頭b)。また、正方形の一辺を半径とした円弧を描き、対角線の交点が辺と平行になるように線を引くと√n短形が得られる(図2.74c)




ルート短形は、それぞれの形に特徴を持ち、√3短形は3つの√3からでき、√4短形は正方形を2つ並べた形で日本建築の基本的概念として応用され、√5短形は正方形と2つのφ短形を左右から重ねた構成となる(図2-75)。図2.76には各短形を並列させたので見比べると、それぞれの図形の性格の相異が理解されよう。  調和比例については古くから研究されているが、1917年にオーストラリアのバウエル(Z,Bau-er)が、著「自然及び芸術における万有調和律(Die Harmonie in Waltall,inNatur und Kunst)」の中で調和三角形の比を1:1.581 = 5:7.905としている。また、他にヴィネケンの比率も有名である。これらの比率とルート短形についての数値を挙げてみると

√2=1:1.414=5:7.07

√3=1:1.732=5:8.66

√4=1:2   =5:10

√5=1:2.236=5:11.18

ヴィネケンの比率=1:1.572=5:7.85

バウエルの比率=1:1.581=5:7.905

ペンタグラム=φ=1:1.618=5:8.09

となり、これらの平均値は約5:8となる。 なお、√2短形ABCDは図2-77のように直線でEFで等分すると、等分された短形ABFEとEFCDとは原短形の√2短形となり、2つ折りにしても、4つ折りにしても同一の比が得られるので、日本やドイツの用紙の寸法規格に応用されている。

また古代ギリシャの神殿建築や壺の美的算出寸法として、√2短形は√5短形と共に多く用いられているが、日本でも出雲大社や法隆寺廻廊復元図の構成に√2が使われている。


黄金分割(golden section) 対象の配分量を黄金比(golden proportion)に分割することを黄金分割という。黄金比は黄金率、黄金載、黄金指数とも言われ古代エジプトに起源を発する。黄金比は自然的形態の中にもよく見られる(おうむ貝、巻貝、ヒナギクの芯、松笠の渦巻、パイナップルの実などの構成上の比率)もので、古代の人々は無意識に、そこに美を発見し造形の参考としたと思われる。  

古代エジプトでは毎年雨期になるとナイル河が氾濫し、家屋や田畑が被害を受けて土地の境界線や所有地が破壊され、それらの復元のために測量が必要となった。その測量の方法に3:4:5の比を持つ直角三角形による縄張法(cording of the temple)が用いられた。これは縄を用いた実寸による平面測量方で、直角三角形の最短と最長が3:5(近似黄金比)となるものであった。この寸法方法はピラミッドにも応用され、底辺が正方形で各辺が正確に東西南北に配置された巨大なこの正四角錘は、基壇が水平で、一片の長さと頂点までの高さは黄金比(図2.79)となるように建設された。黄金比は中世では神より授けられた秘法として、神授比例法(divina proportion)と言われ美的表現の有効な手段とされた。 1920年代にアメリカ・エール大学の美術教授ハンビッチ(J.Hambidge)が古代ギリシャの建築や壺の比例研究を行い「均斉あるいは比例といわれるものには、積極的性質を持つものと、消極的性質をもつものとがあり、前者を動的均斉(dynamic symmetry)、後者を静的均斉(static symmetry)とに分け、美的表現に関わる(図2/80)」と主張したが、絵画でもモンドリアンが、その抽象的な画面構成に幾何学的分割方法として黄金比を用いた。  黄金比を求めると、大小との比が、全体の大の部分との長さの比になる。つまり、分割された小の部分がA、大の部分がBとすると、その関係がA:B=B:(A+B)となる、作図法の例を次に述べる。 線分ABの一端Bから、AB/2の垂線たてCを求め、ACを結ぶ。AC上に線分CBに等しいCDをとり、AB上に線分AD に等しいAEを求めると、AE:AB = EB:AE≒0.618、逆の比は1.618 の黄金比となる(図2.81a)

 正方形ABCDの1辺BCの中点を中心として半径ODの円弧を描き、BCの延長との交点Eを求める。Eから直線BE垂線をたて、ADの延長との交点Fを求めると、AB:BE=BC:BE=BC:CE:EF=0.618となる。CはBEの黄金分割となり、短形ABEFと短形CDEFは相似形で黄金比短形となる(図b)。

に出直生館adの延長との公転エフを求めるとAB大AE = BC大ビー= EC大BC正方形の一片に中点を求め√4の対角線をひき、二等分の長さを対角線上に求め、残った対角線上の長さを正方形の他の一辺に求めると、φの短形となり、正方

形の一辺が長辺となる(図c)。黄金短形は図dのように描かれた対角線上にAから垂線を下ろし、長辺DC上にEを求めると短形ABCDと短形AFEDとは相似形となる。

黄金短形は正方形と黄金短形の組合せとなり(図2.82a)、正方形に対角線を描き、正方形と黄金短形に順次分別していくと黄金比をもつ渦巻が図bのようにあらわれる。

 ピタゴラスの一派は「万物は数であり、世界は数と、その比例で成立する」と述べ、星形五角形を、一派の紋章をしたが、五角形は古代ギリシャでは「神秘の紋章」といい、建築、貨幣、紋章に多く用いられ、植物形態におおっく見られるもので、紋章の形に多く応用さえている。図2.83のAB:CB=CB:AC、DC:CE=CE:DE、CF:FE=FE:FDは黄金比となる。



日本の造形に見る黄金比

日本には黄金比がペルシャ、中国を経て伝わってきたと言われるが、その時期は不明である。室町時代になって能面の制作に黄金比が使われ、額上下の長さと左右の幅、両眼の横位置の中心線から期上部までと顎の下までの長さが黄金比となっているのが見られる(図2.84)。黄金比は建築・絵画・工芸・紋章などにも使われているが、建築では京都の「桂離宮」と北海道の「五稜郭」が著名で、特に前者は黄金比が巧みに用いられている。「桂離宮」は小堀遠州が寛永末から明暦の25年に及ぶ歳月をかけたものである。新御殿の側面には、その高さと横の長さに黄金比が用いられているが、最も効果的に使われたのは、表玄関にある御輿寄で、大小40の「真の飛石」と言われる40の石畳が7つの黄金短形を短辺でつないだ形に構成されている(図2.85)

絵画では葛飾北斎が黄金比を用いて制作している。彼は文化9年(1812年)に絵手本「略画早指南」を出版し、そのなかで「丈山、尺樹、寸馬、豆人などといえる画に尽く基法あり、されど起こるところは方円(方形と円形)を出ず。今、北斎老人是を基として規矩(コンパスの指金)の二つをもって、もろもろの画となすの定位を救う。かの焼筆を用いて形をとるに同じ、これを学びてよく規矩二つに自在ならば細密の画というもこれ工夫を持ってなすべし」と述べ、コンパスと指金を用いて、多くの略画を表現しているが、これは自然的形態が球、円、錘、円柱に要約できるとするセザンヌの考え方に似ている。

北斎が64歳半ばから70歳過ぎて完成した「富嶺三六景」は奉書に木版多色刷の46図からなる大型綿絵であるが、その寸法は天地八寸八分、左右一尺二寸二分(約25 × 37㎝)の√2短形に近い大きさに作られ、その構成は彼が「三ツ割の法」と称した上下が二、あるいは三等分割され、各所に黄金比が応用され、全体と部分、部分と部分が比例的に表現されていて、その方法はアングル、ミレー、ゴッホなどの画面構成に非常に共通した手法であった。


黄金比は日本においても桃山時代には「五三の桐」、「五七の桐」と言われた桐紋(図2.87a)や、菱の葉をモチーフとした菱紋(図b、c)が被服の模様などに使われた。また、寸法算出には「規矩術」、「三五の比」などといわれ、1:√ 2の比(図2.88)になっている曲尺が用いられた。今日でも黄金比は我々の日常生活に多く見られ、ハガキ(1:1.55)、10本入りタバコの箱(1:1.6)、名刺(1:1.64)などに、その比率を見ることができる。


モデュロール(Le modulor)

ル・コルビュジェ(Le Corbusier)はデザイン用尺度として黄金比を基本に体系化した黄金色を考案し、モデュロールと名付けた。それは人体の寸法と数字とを統合したもので「広場から本箱に至るすべてのデザインに適応しうる尺度」とし、メートルやフィートなどの数値よりも、人体寸法との関わりを重視して作られた。

モデュロールは、自然な形で手を上げ、手の先から頭頂まで、頭頂から臍まで、臍から踵までの3つに区分し、全身の2等分点を臍の位置ろし、その区分相互の関係が1:1.618:2,臍から下が単位1となり、その比例はフィボナッチ数列を含んだ数字となるものであった(図2.89).

この比例尺は、フランス人の標準寸法である175㎝の人間を基準としたが、のちに英国人を基に寸法算出を行い、身長が182.9㎝の高さを基準に、手を上げた寸法が226㎝、手を下げて手のひらを水平にした高さを86㎝、臍の位置を113㎝とした。

モデュロールは人体と黄金比との関係を、生活様式全体に考えを広めたところに意義があり、マルセイユのミシュレ大通りにはモデュロールを駆使した「住居単位」という、ル・コルビュジェの設計したアパートがあるが(図2.90)

この建物は1945年に着工、7年がかりで完成したもので、全て人体比例の調和を考えて作られている。

日本でも、古くから「生活尺」とい寸法算出で、ものが作られた例がある。例えば、日本人の腰幅寸法に合わせたものがお盆で、普通一尺二寸(36㎝)で「尺二」という。長手盆、茶盆、隅切善など、いずれ「尺二」で作られている。この寸法に盆を持ったときの手の寸法「尺五 (45㎝)」は日本人の肩幅で、約三尺の通路幅である京間に、「尺二」のお膳の行き交いができた。

今日でも通勤・通学バスや電車のシート幅は1人分が約「尺二」で、長距離用や新幹線のシート幅は「尺五」でややゆとりがあるように設計されている。これら人住寸法は昔の住まいに合わせて作られており、家具や建物寸法は日本人の身長に合わせて作られた「生活尺」で決められ、機能的で、畳にしても、昔の人の平均身長の五尺に一尺ゆとりを持たせ、六尺とし、幅三尺とし二枚に1枚並べて正方形になるようにした。畳は「たたむ」ことから「たたみ」に使われ、法事、祝言、来客の時に敷き、普段は板の間にして生産作業の工房に用いた。明治以降になって畳を敷きっぱなしにする習慣がついた。