• 吉岡徹

形態の基礎理論・・現実的形態・・ 自然的形態

更新日:2020年2月3日

 自然的形態

フラー・ドームの発明家、フラー(R.B.Fuller)は「宇宙の全てのパターンは、他のパターンに絶えず様々な度合いで作用しており、それ自体が独自の局部的状態で再編成している。これらのパターンは、群れをなした星のようにある場所に集合し、再生し群れをなす。それは再編成、結合。離散してさまざまなパターンを作る。つまり、構造体となる」と述べ、自然界の組成が物理的、化学的、電気的作用の繰り返しによる一定の法則により釣り合いのとれた状態を生じていることを指している。造形においても自然的形態を素材として扱うときに、自然の論理に従った方式を考慮し、その素材でなければ創りえない構造形態を求める事が重要となる。自然界における有機的形態は発生、成長、死滅を繰り返し、無機的形態はその組成、結晶構造、分子構造の相互作用を常に示しながら変化するが、それ等の形態に内在する規則的組成を理解することが造形に必要となる。

 自然的形態は、時と場所に適応して形象化下表現を示し、岩は波の浸食のために柱状となり、小石は丸みを帯びる。また、植物も動物も周囲の環境に適応しようとする。それは自然物が存在していくためのプロセス、および多くの結果として啓示される自然の性質(nature of nature)で、それが自然の論理となる。生命のない無機物は、それ自体が持つ組成と存在の状態とにより、加えられる物理的・化学的作用の繰り返しによって自然の論理に不釣り合いな部分は取り除かれ変化する。そこには計量不可能な長い時間が刻印される。エベレスト・グランドキャニオン・のように人為的作業では不可能な表現をみれば、それは理解できる。

 無機的形態は自然の論理に従い、その表現はすべて受動的作用となるが、有機的形態は能動的形態となる。樹木の断面は成長による年輪が刻印され、靭性豊かで圧縮されやすく、伸縮性のある切れにくい耐久性を持つ構造である。それは動物的形態にも見られ、例えばオーム貝の螺旋状の外形と内部の複雑な構造は成長過程と自己保身を兼ねながら独自の形態を生み、樹木と同様に機能的、合理的パターンを構成している。これら人為的形態で得られない長い歴史の変還を得た 自然的形態は理想的で完全な論理が示され、それは時代・社会・技術によって形態変化する人為的形態ではなし得ないものである。

 石や木、土の自然的形態は人々に応用されてから、長い歴史を経てきた。木や土に比較して硬く、耐久性の優れた石は石器時代末期に石切り場が使われ、さまざまな道具が工夫されたが、なかでも建築に盛んに利用された。ギザのピラミッドをはじめ、ギリシャのパルテノン、ビザンチンの聖ソフィア寺、ゴシックのシャトル本寺など、多くの石造建築が歴史に彩をそえた。

 土は石が風化し、推積し、長い変換の末に生まれたもので、石に比べ普通は軟らかく、軽く加工も容易で造形のために多用される。BC2000年頃の旧石器時代の後期オーリニャック文化には粘土塊に指で線を描いたものが作られているが、シベリアのバイカル湖、中国の黄河流域、メソポタミアのシリア、エジプトのナイル河流域、北欧のアンキルス湖畔の地域などでも多くの土器が発見されている。また、北メソポタミアのチグリス河上流では、藁を混ぜた粘土で作られた神殿を中心にした市街地の遺跡が発見されている。やがて、建築物は自然乾燥による粘土塊や煉瓦の表面を焼成煉瓦やタイル、石板で補強し用いるようになり、より強固で不変性のあるものが作られるようになった。

 石や土よりも柔軟で抗張性のある強い木は曲げの強度を持ち、切断、加工、成型が容易な材料となる。土のように不定形でなく、棒状で固有の内部組織をもつ木は原子の時代より、生活用具や船、建築に使われている。西欧の地中海文明の建築形態は石を主とし、木を従としているが、日本を含む南方的な中国系の地域は木を主に石を従としている。造形は意図が明確化したときに、材料の選択によって、その性質を追求し形象化するところに創造性が得られ、材料の性質の追究が浅い場合には造形意図は矮小化され歪曲化される。文化の発展に見られる造形物は方向や意図を簡単に分析できるものではないが、石に比較して加工し易い木は石より造形材料として先行する。しかし、石の硬さに挑戦し、利用技術を獲得したとき、木により造られた形態は石に移行する。それは古代ギリシャの神殿に形成されているドリス式やイオニア式のオーダーの梁部分が、それまでは木造神殿の構造様式に多く負っていることに明らかに示されている。それは単に模倣や再現に終始して移し変えられたものではなく石の性質が考慮された結果示されたものである。

 東洋では、木と共になじみ深い材料に竹がある。竹は古くから用いられている材料で節目と、中空の構造を持ち、縦に裂けやすく弾力性に富み、加工を余り施さなくても形が得られる材料である。約5000種類もの多様な材料であり、特に熱帯地域では良材が求められる。エジソンが電球のフィラメントに用い、一躍有名になったが、今でも家具・調度品に幅広く人々に使われている。

 原始時代の人々が石斧と棍棒を組合せて「手斧」を作り、家を建てるために樹を切り、獣と戦うための道具として用いた。それは石の重さと硬さ、木の曲げの強度とその容易な加工性は、単なる石の塊と、気の棒とが、構造系として有用あるものとして形成されたもので、そこには有用(機能性)で新しい素材という2つの特性が形象化されたものであった。この両者の開発が基となって人類は発展してきたのである。既存のものを単に模倣したり、技術上の追及に終始したりする事では社会の発展もない。新しい素材や機能の開発が基本にあってこそ、時代の技術と体勢による新しい独自の形態を生産するのである。それ等の開発が停滞した時は単なる技術の追及に終わり、様式の繰り返しとなる。それは形式美として、ギリシアの神殿建築や日本の数寄屋造りのように素材を純化した造形を生み出すことになる。