• 吉岡徹

形態の基礎理論・錯視(視覚間知覚・エイムズの歪んだ部屋・歪像画)

視空間知覚

三次元空間において空間的特性に関わるものを空間知覚といい、その中でも視覚に関するものは、特に視空間(visual space perception)と言う。視空間は必ずしも特定の感覚器官のみによって成立するとは限らず、いくつかの感覚器官の合成によって生じる。視野内における対象は視線によって知覚の仕方が違ってくる。これを異方性(anisotropy of space)、または非等高性といい、視力、方向弁別、面積知覚、運動速度など違った現象が生じる。つまり、視空間は特質、相称の存在する場所がない、異方向の現象は空間錯視(space error)の生じる原因となる。これらの現象をまとめると次のようになる。


(1)視力の異方性:ランドルト(Landolt)の環視票では、環の切れ目が上・下・左・右に比べて、斜めにある時の方が視力が低下する(図2.125)。

(2)幾何学的錯視における異方性:水平・垂直線に比べ斜方向線は感覚的に鋭敏度が異なり、錯視現象が生じる度合いが大きい。

(3)視空間における異方性:平行線は遠方に行くにつれ収束し(遠近法、perspective)、点となり、対象は小さくなる(線遠近法、linear perspective)、また、対象は淡く露がかかり、色味が弱まる(大気遠近法、aerial perspective)、遠近法は対象を実際的に表

現するのに有効な手段となる。等大の図形は遠方になるにつれ、小さくなるのに、その法則を無視すると対象も異なった大きさに知覚される(図2.126)。このような遠近法は色彩では進出色・後退職によっても生じる。また重なり、肌理(texture)の密度によっても生じ、「粗」は手前に「密」は遠くに見える(図

2.127)。遠近法や奥行感は影によっても異なった現象生じるが、これは光は上方よりと言う一般的概念による経験的判断からくるものである。その他に車中から見た遠景に比べ、近景のものは早く過ぎ去っていき、距離の差が遠近感を示す現象もある(運動視差、motion parallax)。

これら遠近法の法則を無視して作図すると実際的表現と結びつかぬ不可思議、かつ不安定な表現となる。

図2・128aは左右の図形が正常に描かれていないため、図bは倫理的には3カ所が折れた図として説明できる形であるのに、実際には形成不可能な図形のように不可能な図形(impossible figure)となる。これは逆理図形とも言われ、具現化不可能な図形である。図c,d,eはその応用作品。遠近・奥行知覚は水晶体調節、両眼視差、両眼輻輳などの生理的機能によるよる場合と、これらの要因に無関係な場合がある。空間知覚は耳の中の内耳器官が大脳と神経刺激との伝達によって修正され、条件・状況によって知覚される。






                   エイムズの歪んだ部屋(Ames’distorted room)


単眼視は対象の距離や空間が的確に把握されず近くは不十分となり、両眼視に比べ視覚の大小、反射光線などが異なる。アメリカの眼科医エイムズ(A.Ames)は一室の左側の天井の高さ、奥行きの深さを右側のそれの半分の長さにして、壁や窓を、それに相応するように設計した歪んだ部屋(図2.129)を作り、この現象実験している。この部屋を一様の明るさにして前面に衝立かスクリーンを置き、正面やや右寄りに1つ小穴を開けて覗くと、部屋は正常な部屋を中央の穴から見たように感じる。しかし、この部屋にほぼ同じ身長の人を入れて覗くと、立っている位置によって、その人の大きさが異なり、巨人と小人のような差が生じる(図2.130)。エイムズは他の透視図法で描いた台形の窓枠(図2.131)を作り、これを一定速度で回転させ、10フィート離れたところから単眼視で、25フィート以上では両眼視で観察すると半回転往復運動する長方形の窓に見えることや、この窓枠の一端に棒などをつけると窓枠と反対方向に回転したり、彎曲したり、急に真直ぐになったりして見える現象が起こることも発表している。これらの現象について、彼は被験者が窓は長方形であるという過去の経験に基づいた知覚によって規定することから起こると説明している。



歪像画(anamorphic art)

透視図法は、立体を平面上に、我々の眼に映ずると同じように表現する方法で、ルネッサンスに芸術的手段として確立され、それまで距離や大きさを、いかに正確に描くか、その方法を模索していた芸術家に希望を与えた。この手法は今日の時代まで継承され、芸術家のみならず、その他の人々に応用されている。

透視画法の考案が芸術家にとって有効な手段として登場したときに、逆手の表現として登場したのが歪像画である。これは描かれたものが一見して判別しにくいが水平にして横から見ると(図2.132)、箱の横穴から覗く(図2.133a)、金属の円柱を置く(図2.133b)などの見方により理解されるように工夫されて描かれたもので、普通は金属製の円錐や円柱を用いて鑑賞する場合が多かった。

歪像画は16~18世紀に栄え、当初は一見して理解し難い点を生かし、権力者への反抗や春画などの表現に使われ、やがて建築や壁など、その表現方法も拡大したが、芸術的作品としては評価されなかった。しかし、後年、ダリが多くの歪像画を発表し、その芸術性が認められた。

今日の日常生活の中でも、コーヒーポットやスプーン、クリスマス・ツリーなどのクロム・メッキに写るもの、標識や道路上の交通記号の変形化、地球の球面を平面に展開するための地図投影法、写植文字の変形などの歪像画的表現は多い。