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執筆者の写真吉岡徹

形態の基礎理論‥線

更新日:2021年4月15日

1・線の意義


線の意義は幾何学的には点と同様に不可視的形態で面積、長さ、幅、奥行を持たない一次元的存在で、点の移動軌跡、面の限界や交差、切断面に存在する。造形的に考えると線は、その幅が長さに比較して短くなくてはならない。面との分別は、点と平面との関係と同じように相対的な問題である。

 線を描くと、その両側に新しい面が誕生する。円を描けば内側と外側に新しい面ができる。つまり、線は境界線として図形を区分する性質を持つ。線にはクロッキーなどのフリーに描かれた有機的表現と、定規など器機を用いた設計製図などの無機的な表現があり、形態的には直線と曲線に分類される。


2・直線


2つの点の間に虚線が生じ、視線誘導の効果を生み、その最短距離が直線(st-raight line)となる。直線は人為的形態で無限の運動を示す。直線は種類としては1つで、「硬直」「単純」「直截」「男性的」なイメージをもつ。太い直線は「強い」「鈍い」「重い」のイメージ、細い直線は「弱い」「神経質」「鋭敏」のイメージとなる。なお、直線は図2.10に示されるように水平線(horizontal line)、鉛直線(vertical line)、斜方向線(skew line)の3種類に分類される。



 人間は、生物学的には二歩行により手を使う事で脳の発達を促したと説明される。それが他の動物との大きな違いとなるが、この二本足は安定性という点から考えると、3本足や4本足に比較して、視覚的、構造的に不安定だが水平、垂直の感覚に対して鋭敏な感覚が養われ、我々の生活の中で心理的、生理的な安心感を与える事に結びつく。図2.11の明朝体は横線が細く、縦線が太くして水平、垂直のバランスをとっている。文字や建築の構成は水平、垂直の線の性格が端的に表現され、その効果も大きい。

 水平線は厳密には自然界には存在せず直線と同様に人為的なもので、人々の便宣上の産物である。水平線に対して直角の概念をもつのが鉛直線である。鉛直線の重力の存在から生まれ、雨や垂れ下がった蜘蛛の糸など現実的形態に多くみられる。人間工学の実験では横臥した人間が30度の斜面で感じるのは水平意識であるというデーターがでているが、これは鉛直線に対しての感覚が、我々の意識は鋭いことを示している。また、われわれが水平線と鉛直線を観察するときに、前者より後者の方が眼の動作が大きい。そのため、対称の長さに関する正確度に差が出る。たとえば、鉛直線を水平線との2本の線をおなじ長さに描かせると、多くの人は水平線の方を長く描く。また、両者を等分させると、鉛直線の等分点を指示する方が難しく、一般に中心よりやや上部にその位置を印す。

 水平線は広がりの性質をもち「静的」「制限」「受動的」のイメージとなり、多いと「抑圧された」イメージとなる。鉛直線は上昇の力が現れ、「権威」「中心」「男性的」のイメージをもつ。また、鉛直線が多いと「厳格」「冷淡」な表現となる。斜方向線は動的で不安定な線となり、水平線や鉛直線にみられない自由なイメージをもち、「活動的」だが「不安定」な表現を示す。

ピサの斜塔(図2.12)が周囲と異質な光景を表しているのは、建物自体が斜めになっているからである。

 カンディンスキーによると、水平線は無限に冷たい運動性を、鉛直線は暖かい運動性を示し、また斜方向線はこれら2つのイメージを含有すると述べているが、3つの線の性格は明確な違いとなっている。


                            基礎デザイン・吉岡徹                     


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