ナギ(M.Nagy)は「タイポグラフィは伝達手段として優先する」と述べているが、文字(lettering)はグラフィックデザインに不可欠であり、他のデザインとのかかわりも強い。造形の歴史においても、古代ギリシアでは絵画、彫刻、建築、工芸制作で、書体の考察、文字の組合せ、装飾的表現などについて重視しているし、多く使われている。文字はタイポグラフィ(typography)ともいわれるが、この場合は活版術、広義には印刷術全般のことで、文字を書くことは一般にレタリングという。
文字は絵文字(pictograph)からはじまる。それはアルタミラの洞窟画に見るように、その歴史も古い。物の形をそのまま写した絵文字は少しずつ単純化されて象形文字に変わりシュメル文字、エジプト文字、漢字が誕生した。

シュメル文字は後で楔形文字(きっけいもじ)(図1・22)に変わったが、これは当初、柔らかな粘土板に藁の尖筆を用いていたのが、直線や曲線を描くのに不都合な為、尖筆の先を楔形に削り、線の代わりに、その先を押しつけ表現するようになったためである。エジプト文字は藁を原料としたパピルス(papyrus)紙に樹脂製のインクを使って自由に描かれ

、後に神官文字(図1・23)に展開した。漢字は中国で生まれ、獣の骨や牙、亀の甲に鋭い刃物などで印されていたのが、紙や筆の発明により書体が工夫されて変化した。
象形文字は観念やイメージなど抽象表現として、表意文字となり、そして、文字の使用頻度の増加と共に、言葉の音をそのまま表記する表音文字となった。アルファベット、かたかな、ひらがなの誕生である。アルファベットはフェニキア人がエジプト文字を改良し、それがギリシア・ローマ・エトルリアに伝わって、今日の書体に近いものとなった。ひらがなやカタカナは日本独自のものである。ひらがなは日本語を漢字の音を用いて書いた真仮名・(万葉仮名)が後で草書体になったものである。なお、ひらがな、カタカナは明治33年に現行の書体に制定された。
絵文字はクレテ、殷、古代マヤ、シベリアなどでの遺品の数々に見られる。

図1・24・a はシュメルの絵文字から楔形文字に展開されたもので、BC 2500〜BC 2000年頃に粘土板に押印して作られたものである。bは獣骨や亀甲に刻まれた甲骨文字で殷で発見されたもの、Cはアメリカ・インディアンが使用したも、いずみ。dはアメリカの牧場で家畜に専有の印として用いたもの、eは日本の木こりが伐採した樹に印した「木印」である。
獣の骨や牙、亀甲、岩壁に描かれた絵文字は、やがて、板や紙に描かれるようになり、古代エジプトでは葦に似た草を裂き、縦・横に編んで押圧し、板状にしたもの(papyrus)にゴム溶液にススを入れたインクを用いて描くようになった。しかし、この板状の紙は折り曲げることが不可能なので、記録し、一冊にまとめると膨大な厚さとなった。やがて、ギリシアで羊毛紙が考えられるようになると、その悩みも解消した。古代エジプトの表意文字は神殿や墳墓の壁面や柱、棺に装飾的で色彩豊かに近代のペン書きに似たタッチで印された。
紙の発達と共に印刷術も進歩し、6世紀には木版術が中国で発明され、8世紀頃には日本で「陀羅尼経」が刷られ、15世紀にはグーテンベルグ(J.G.Gutenberg, AD1400〜AD1468)
が印刷機を考案した。印刷の発展は聖書普及に大きな力となったが、18世紀末の石板や19世紀になって写真術の発達、複製の技術の進歩は印刷をより鮮明に精巧なものにした。アメリカでは活字鋳造機、自動鋳込植字機が発明され印刷技術が進む一方、美術工芸運動、アール・ヌーヴォー、ダダイスム、デ・スティール、バウハウスなど、近代デザインの源流に関わった人々や団体は文字のデザインを活発に行った。
数字は古代エジプトですでに使用され、二次方程式の解明や幾何学的立体の求積の研究などが行われた。BC4世紀には円錐曲線の発見、ユークリッド幾何学の研究などが行われた。

図25.aはバビロニアの60進法の表示で粘土板に斜めに切った葦で刻み目をつけたもの、bはマヤ民族のもので、1と5を●と━で、○は半開きの眼で20進法を表現している。
cはローマの数字表示でVは片手の親指を開いた形でXはVを2つ上下に向き合わせたもの、dは日本の吉田光由が中国の文献を基に書いた「塵劫記」に載せた四桁区切りの単位表示で、今日でも使用されているものである。
数字は当初、手足を用いていたのが、石、岩、木、動物の骨に印したり、縄の結び方の工夫によって数えるようになったが、今日でも、ニューギニアのサイビラ族は1から5までを右手の指と左手の指で、6から14までを左手の手首、前腕、肩、耳、眼、鼻で15から17までを左手の指を身体の左側から小指までを指して数えている。s方法は彼らが昔から用いてい方法である。

(図1・26)、また、ペルーのインカ帝国では、トウモロコシの実を使って算盤し、キプ(quipu)という羊毛の紐の結び目で税金、人口の統計を印したが、この結縄法は今日でも南米、チベット、中国の一部で用いられている。
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