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  • 執筆者の写真吉岡徹

形態の基礎理論・錯視(反転の錯視・運動の錯視)

反転の錯視 平面上の図形には平面的に見えるものと立体的に見えるものとがあり、後者の場合、凝視した時や瞬きしたときに、不意に反転して裏返しに見える図形がある。この立体感の成立の仕方において二様の可能性がある図形を反転性遠近錯視図形(reversible perspective figure)と言う。この図形の凹凸や奥行きに対する錯視は、両眼の調節と輻輳現象に関連する。

図2・118aは、コーナーの●印を見ていると図形が一瞬に前面四角形と後面のそれとが反転す。図bは中央の折り目が手前になったり、向こう側になったり反転する。図cは階段の状況が右下から左上に上る状態に見えたり、逆さ階段に見えたりする。このとき壁面の●印は左下の壁面より後面に見えたり、前面に見えたりする。図d,e,f,gも同じ現象が生じる。しかし、反転性遠近錯視図形に似た図形でも反転しないものもある。図 2・11aは、その視点を徐々に移動させた場合、aは立体的に見えるが、b,cの図形は平面的に見える。また、図2・120は、左側の図形と右側のそれと比較したとき、前者は平面的に、後者は立体的に見えるが、これは一般的に図形は正面より投影が行われ、左右対象の場合は平面的に見えやすく、簡単で規則的になればなるほど平面的に知覚される現象である。コッパーマン(H.Ko-phermann)は、これらの現象について、図2・121のような奥行きのある箱を作り、その中に図形を描いたガラスを重ねて入れ実験を行い、その結果、図形が離れている場合(図2.122a)の図形はまとまって見えず、統一している場合(図b,c)にはまとまって見え、それぞれ平面的、立体的図形に見えると報告している。


運動の錯視

たいまつの火を円形に振り回せば日の輪に見える事は、原子時代の人々も知っていたろう、二次元における奥行きや立体感、動きについての研究は古くから行われ、2世紀ごろにブトレマイオスが「光学」のなかで、「扇形をもった円を回転させると円全体が着色して見え、眼に映った対象は視野内から消えても、その残像は一瞬、残る」と述べている。これは対象が視野内から消え去っても短時間ではあるが、その印象が保持されるべき性質を持つことを指摘している。

19世紀初頭にフランスで厚紙の両面や十字直交面にそれぞれ違った絵を描いて、素早く回転させると絵が連続して見える「タフマトロープ」(図2.123)や動作を少しずつ変えた絵を円盤の周囲に描き、それと同数のスリットをあけ、円盤を回転させ、そのスリットを通してみると動いて見える「フェナキスチスコープ」(phenakistiscope)、スリットと円盤と絵の円盤により構成されたヘリシネグラ


フ」等の玩具が人々の間に流行した。20世紀になり、バウドイッチとホール(Bowditch&Hall)が窓枠内の縞模様を動かして、止めると窓枠内の模様が逆方向にみえる実験装置を考えた(図2.124)。これは滝の錯視と言われ、運動残像を示す現象であるが、似た現象は我々の日常生活でも、しばしば見る事がある。例えば停車中の電車に乗っている時、並列した電車が動き出したときに、自分の乗った電車が動いて感じる場合や、雲間の月が、その周囲の雲の動きにより動いて見える場合、また、橋の欄干越しに川の水を眺めたとき、水が静止して、その上を橋が流れてみえたり、三味線やギターの弦が鳴らされたとき結び目同士に膨れた形に見える場合などは運動の錯視の例である。

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