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  • 執筆者の写真吉岡徹

色知覚・・順応・・主観色

順応

 感覚器官に与えられた刺激に応じて、感受性が次第に変化する過程や変化した状態を順応(adaptation)という。昼間の明るい街中から暗い映画館の中に入った時や、ドライバーが暗いトンネルの中に入ったとき一時的に盲目状態になるが、この現象は時間とともに周囲の状況を確認できるようになる(暗順応:dark adaptation)。反対に暗いところから明るいところに出たとき、時間とともにまぶしくならなくなる(明順応:light adaptation)。暗順応は桿状体が暗さに順応することで、明順応は錐状体が明るさに順応することである。暗順応は明順応に比較して時間がかかる。

白い紙は自然感光の下でも電燈光の下でも、同一の白い色に感じられるが、実際には照明光線の分光分布は非常に異なる。自然昼光は青みを持ち、電燈光は黄みを帯びているために、その白紙からの反射光も非常に異なって測定値に示される。この現象は、周囲の照明光の色や明るさにならされ、物理的には異なった色刺激が、感覚的に同じに見えるからである。このような照明光の色に対する順応過程または順応状態の色順応(chromatic adaptation)と呼ぶ。なお、照明や観測条件が異なっても、主観的には物体色があまり変化して見えない現象を色覚恒常(color constancy)と言う。


主観色


19世紀初頭にフェヒネル(Fechner)が、白黒模様の円板を回転させると、その表面に色覚が現れることを発見した。これは主観色(subjective color)、あるいはフェヒネル・カラー(Fe-chner color)と呼ばれた。この円板は人工スペクトルとして英国では図柄の版権問題が生じるほど流行し、また、多くの円板パターンが考案された。このフェヒネル以降に多くの円板が考案された中で(図3.9はその一部)、ベンハム図形(Benham top)は主観色が顕著に示された。筆者は、この主観色発生について種々の実験を行い、半円の黒の大面積と円弧との位置構成により、主観色が異なって現れることを結果とし得た。

主観色は静止図形においても見られ、ラキッシュとモス(Luckiesh and Moss)やマッケイ(D.M.Mackay)の図形(図3.10)で著名で、マッケイの図形は1957年に‘‘Nature”誌に初めて発表され、オップ・アーティストに大きい影響を与えた。静止図形における主観色は、細い平行斜線や縞模様などの間隔の狭い部分に、パステル調に見える場合が多い。主観色の発生原因についてフェヒナーは、刺激を与えてから色覚が生じるまでの時間と、刺激を取り去っても色知覚が残存する時間とが、色により差があるためと説明しているが、刺激の時間的パターンによる視神経興奮パルスの一種の周波数変調によると言う説もある。

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